【データで読み解く住宅ローン】市場の成長要因と消費者のリスク回避行動 ~2023-2025年、ペアローンは約8.6倍の驚異的な伸び~

住宅ローンの事前審査(仮審査)とは、金融機関が本審査(正式審査)を行う前に申込人の返済能力や購入物件の担保価値などを簡易的に審査し、申込人の年収で無理なく住宅ローンを組めるかどうか目安を確認するためのものです。本レポートにおける事前審査提出件数は、「いえーる ダンドリ」を通して申込みされた事前審査の件数を指します。
Table of Contents
政策金利・不動産価格と住宅ローン
身近な例で考えてみよう①

- ソフトの値段: ゲームソフトそのものの値段です。
- レンタル料:ゲーム機を借りるために毎月払うお金です。
このゲームソフトがとても人気で、値段がどんどん上がっていきます。すると、ゲーム機のレンタル料も少し上がっていきました。あなたならどうしますか?

この「ゲームソフト」が「住宅」、そして「レンタル料」が「金利」だと考えてみてください。
「金利が少し上がっても、住宅の値段がもっと上がる前に早く買っておこう!」と思いますよね。
政策金利・短期プライムレートの変動
これは、金利がさらに上がる前にローンを組んでおこうと考える人が増えるためだと考えられます。
| 2024年3月 | 政策金利 -0.1% から 0.1% に引き上げ
|
| 2024年7月 | 政策金利が 0.1% から 0.25% に引き上げ
|
| 2025年4月 | 政策金利が 0.25%から 0.5%に引き上げ
|
- 政策金利と住宅ローンの事前審査提出件数には弱いながらも相関関係にあります。
- 金利の引き上げ局面では、事前審査提出件数と住宅ローン借入額(以下、借入額)が一時的に減少する傾向が見られました。
- 特に2025年4月の金利引き上げ前には「駆け込み需要」と考えられる事前審査提出件数と借入額が大きく増えました。
- これは、消費者が金利の変化を敏感に察知し、行動に移している可能性を示唆しています。
| 2024年8月 | 短期プライムレート 1.475% から 1.625% に引き上げ
|
| 2025年3月 | 短期プライムレート 1.625% から 1.875% に引き上げ
|
- 短期プライムレートと住宅ローンの事前審査提出件数には弱いながらも相関関係にあります。
- 金利が上昇する局面で住宅ローン関連の活動が増加する可能性を示唆しています。
- 金利が上昇するタイミングでの駆け込み需要のような市場の反応と一致していると考えられます。
不動産価格の変動
また、この上昇トレンドに沿うように、事前審査提出件数の累積成長率は安定して増加 しています。
- 不動産価格と住宅ローンの事前審査提出件数は非常に強い相関関係にあります。
- 住宅価格の上昇が、住宅ローンの事前審査提出件数や借入額の増加に密接に関係していることを示唆しています。
- これは、不動産市場の活況が住宅ローンの需要と供給を牽引している可能性があることを意味しています。
マクロな市場トレンド

また、政策金利の変動や不動産価格の上昇といったマクロな要因が、市場全体の動きにどう影響しているかを特定することで、売上や事前審査提出件数の変動が、消費者の心理変化や外部環境の変化によるものだと明確に把握できるようになります。
全体的な成長率
| 2023年1月から2025年7月の市場全体成長率 | |
| 項目 | 成長率(倍) |
| 変動金利 (三井住友銀行) |
約1.16倍 |
| 東京23区中古マンション価格(70㎡あたり) | 約1.51倍 |
| 借入額 | 約2.3倍 |
| 事前審査提出件数 | 約2.50倍 |
| ペアローン | 約8.6倍 |
| 単独債務 | 約2.15倍 |
- 金融市場と住宅市場の動向
- 変動金利が約1.16倍に上昇。住宅ローンの金利が上昇傾向にあることを示しています。
- 東京23区中古マンション価格(70㎡あたり)が約1.51倍に上昇。金利上昇にもかかわらず、不動産市場における価格上昇トレンドが続いていることを示唆しています。
- 「ペアローン」が市場を牽引
- 全体期間で最も高い成長率を示したのは「ペアローン」で、8.6倍と圧倒的な伸びを見せました。
- これは、市場全体が成長する中で、特にこのローンの組み方が急速に普及したことを物語っています。
これは、単独収入では希望物件の購入が難しく、複数の収入を合算して借入額を増やすためです。共働き世帯の増加により、二人で返済負担を分け合い、家計のリスクを分散する傾向が強まってきているといえます。
市場が最も大きく変動した時期はいつ?
身近な例で考えてみよう②
- 成長率:
- 「どれだけ進んだか」を割合で示します。
- 例:去年 1,000km走った車が今年 1,200km 走ったら、20%の成長です。
- 「どれだけ進んだか」を割合で示します。
- インパクトスコア:
- 「どれだけ荒い運転をしたか」を回数や程度で示します。
- 100km走る間に、急ブレーキや急ハンドルを合計 18 回行ったら、それがスコアになります。
- 「どれだけ荒い運転をしたか」を回数や程度で示します。

金利が急に変わったり、人々の行動が大きく変動したりすると、それぞれの項目の成長率(または変化率)の絶対値が大きくなります。これらの数値を合計することで、特定の期間に市場がどれだけ「荒れた」のか、どれだけの「衝撃」があったのかを客観的に評価します。
各月の合計インパクトスコア
市場の「動きの激しさ」を測るインパクトスコアを用いて、どの時期に市場全体が最も大きく変動したかを特定します。/div>
| 月 | 項目 | 政策金利 | 短プラ | 不動産価格指数 | 申込件数 | 実行金額 | 連帯債務 | 単独債務 | 収入合算 | ペアローン | インパクトスコア |
| 2024年 3月 |
成長率(%) | -200 | 0 | 0.4 | -16.2 | -10 | -5.6 | -11.9 | 10.3 | -21.9 | 276.3 |
| 2024年 7月 |
成長率(%) | 150 | 0 | 1.4 | 19.3 | 5.3 | -9.5 | 20.7 | – | 30 | 236.2 |
| 2025年 1月 |
成長率(%) | 100 | 0 | 0.7 | -11.4 | -12.5 | 65.4 | -19.1 | -30 | 1.6 | 240.7 |
【表の見方】
・成長率(%):各月の項目が、前月と比較してどれだけ変化したかを示します。
・インパクトスコア:その月の「成長率」の絶対値をすべて足し合わせた値です。このスコアが高いほど、市場全体が大きく変動したことを意味します。
各月の合計インパクトスコア
- 2024年3月:276.3点
- 2024年7月:236.2点
- 2025年1月:240.7点
■2024年3月の主なスコア
- 金利の変動:
- 政策金利が -200.0%という大きな変化を記録
- 市場の反応:
- 事前審査提出件数が -16.2%、借入額が -10.0%と減少
この分析により、政策金利の変動が市場に与える影響は非常に大きいことが改めて確認できます。
マクロな市場トレンドはどのようなものだったのか
2023年1月から2025年7月までの期間で、住宅ローン市場全体は堅調に成長しました。特に顕著だったのは以下の項目です。
- ペアローン:
- 約8.6倍と圧倒的な成長率を記録
- 事前審査提出件数:
- 全体で約2.5倍に増加
- 借入額:
- 2025年7月にかけて増加しており、全体で約2.3倍に成長
複数の指標との相関分析の結果、住宅ローンの事前審査提出件数や借入額に最も強く連動していたのは不動産価格でした。
金利変動以上に住宅価格の継続的な上昇が、消費者の購買意欲を強く後押ししていたことを示しています。
インパクトスコアの分析から、市場が最も大きく変動したのは2024年3月でした。この時期は、政策金利が -0.1% から 0.1% へと引き上げられた市場の重要なターニングポイントです。この金利変動は、市場全体に大きな衝撃を与え、その後のトレンドに影響を及ぼしました。
ミクロな消費者行動の分析

ここでは、2024年3月の金利変動という「マクロな市場変動」が、各ローンの利用率という「ミクロな消費者行動」にどうつながったかを見ていきます。
住宅ローン申込形態の利用率推移

グラフから、単独債務の利用率が最も高いものの、金利変動後にペアローンの利用率が大きく上昇していることがわかります。
申込形態別 ローン利用率の変化
| 項目 | 変動前平均割合(%) (2023年12月~2024年2月) |
変動後平均割合(%) (2024年3月~2024年5月) |
変化率(%) |
| ペアローン | 10.13% | 14.22% | +4.09% |
| 単独債務 | 60.94% | 64.63% | +3.70% |
| 連帯債務 | 6.43% | 9.44% | +3.01% |
| 収入合算 | 5.83% | 6.96% | +1.13% |
- ペアローンの利用率が急上昇
- 2024年3月の金利変動後、ペアローンの利用率が4%以上増加 し、最も顕著な変化を見せました。
- これは、金利変動という市場の不確実性に対して、夫婦やカップルが協力して借入を安定させようとする行動が加速したことを強く示唆しています。
- 単独債務も割合を伸ばす
- 単独債務も利用率が約3.7%増加しており、市場全体の事前審査提出件数が増える中で、依然として主流のローン形態として選ばれていることがわかります。
- リスク分散の動き
- 連帯債務や収入合算といった他の協働型ローンも利用率を伸ばしており、金利変動が消費者のリスク回避志向を高めた可能性が読み取れます。
金利変動というマクロな市場の変化は、消費者の「ミクロな行動」に直接的な影響を与え、特に「ペアローン」やその他の協力型ローンの利用を促していることが明確になりました。
住宅ローン商品別の利用率推移

グラフを見ると、「銀行ローン」の利用率が常に高いものの、金利変動後に「フラット」の利用率がわずかに低下していることがわかります。
金融機関タイプ別ローン利用率の変化
| 項目 | 変動前平均割合(%) (2023年12月~2024年2月) |
変動後平均割合(%) (2024年3月~2024年5月) |
変化率(%) |
| 銀行ローン | 84.03% | 83.76% | – 0.27% |
| フラット | 5.45% | 5.02% | – 0.43% |
- 「銀行ローン」の利用率は安定
- 金利変動後も、市場全体の事前審査提出件数に占める「銀行ローン」の割合は、わずかに減少したものの、ほぼ安定していました。
- これは、住宅ローンが依然として市場の主要な構成要素であることを示しています。
- 「フラット」の利用率はわずかに減少
- 「フラット」の利用率は、金利変動後にわずかに減少しました。
- これは、変動金利が優位な時期の金利上昇が、長期固定金利であるフラットローンの相対的な魅力に影響を与えた可能性を示唆します。
2024年3月の金利変動後、消費者行動は大きな変化を見せた「ペアローン」とは異なり、「銀行ローン」と「フラット」の利用率については、安定したトレンドを維持していることがわかりました。
ミクロな消費者行動はどのようなものだったのか
金利変動後、消費者は単独での借入に加えて、夫婦やカップルで協力するローン形態を積極的に選択するようになりました。
- ペアローン:
- 利用率が4%以上も急上昇しました。
- これは、金利の不確実性が高まる中で、夫婦が協力して返済負担やリスクを分散しようとする戦略的な行動が加速したことを示唆しています。
- 連帯債務・収入合算:
- これらの協力型ローンも利用率を伸ばしており、消費者のリスク回避志向が全体的に高まったことが読み取れます。
一方で、商品タイプについては、利用率に大きな変動は見られませんでした。
- 銀行ローンとフラット:
- 変動金利と長期固定金利という商品の利用率は、金利変動後も安定したトレンドを維持しました。
- これは、消費者が特定の金利タイプに大きく偏ることなく、自身の状況に応じて慎重に選択していることを示唆しています。
結論として、金利変動というマクロな衝撃は消費者の「ミクロな行動」に直接的な影響を与え、特にリスクを分散しようとする行動と安定した選択肢を求める傾向を強く促したことがわかります。
市場の動向と消費者心理まとめ
1.市場の成長を牽引する原動力:不動産価格
- 住宅ローン市場の最も大きな推進力は、不動産価格の上昇 です。
- 金利の変動以上に住宅価格の継続的な上昇が、消費者の住宅購入への強い動機となり市場全体の成長を牽引しています。
2.マクロな変動が促す「戦略的な」消費者行動
- 政策金利の変動のようなマクロな市場の衝撃は、消費者に単純な反応を引き起こすのではなく、「リスク回避のための戦略的な行動」 を促します。
- 特に顕著だったのは、「ペアローン」の利用率が急上昇したことです。
- 金利の不確実性が高まる中で夫婦が協力して返済リスクを分担しようとする合理的な選択であり、消費者が感情的なパニックではなくリスクを軽減する具体的な行動を取ったことを示しています。
このように、市場全体は不動産価格によって成長し、その中で金利変動という衝撃が加わると、消費者はリスクの観点からローン形態の選択を変えるという、より具体的な構造が明らかになりました。
予測とアクション
今回の分析結果は、住宅ローン市場における短期的な変動を予測し、戦略を立てる上で非常に有効です。特に、金利変動のタイミングでの市場の動きを詳細に把握することで、具体的な対策を講じることができます。
予測:市場は「価格主導」と「リスク回避志向」で動く
今後も住宅ローン市場は、不動産価格の上昇というマクロなトレンドに牽引されて成長が続くと予測されます。同時に、政策金利の変動といった不確実性が高まるたびに、消費者は「リスク回避」を目的とした戦略的な行動を強めると考えられます。特に、共働き世帯の増加に伴い、夫婦で返済リスクを分散するニーズはさらに高まるでしょう。
アクション:予測に基づいた具体的な戦略
最も成長率が高い「ペアローン」の需要をさらに取り込むための施策を強化します。
- ペアローン専用のパッケージ販売:
- 夫婦で住宅ローンを組むことのメリット(借入可能額の増加、団体信用生命保険の充実など)を前面に出した物件+ローンパッケージを開発・提供します。
- 共同購入向けコンサルティング:
- 夫婦それぞれの収入やライフプランに合わせた最適なローン形態を提案する専門のコンサルティングサービスを立ち上げ、消費者の不安を解消します。
不動産価格が最大の購買動機であるという分析結果を活用します。
- 「今が買い時」のメッセージング:
- 「価格は今後も上昇する可能性があります。金利が少し上がっても、物件価格がそれ以上に上がる前に購入することが賢明です」といったメッセージを、販売資料やウェブサイトで強調します。
- 価格シミュレーションツールの提供:
- 将来の価格変動や金利上昇を織り込んだ購入シミュレーションツールを提供し、消費者が自身の判断で「今買うことの合理性」を納得できるように支援します。
金利変動時に消費者がより慎重になることを踏まえ、信頼を築くための体制を整えます。
- 定期的なセミナー開催:
- 政策金利や不動産価格の最新動向について、専門家が解説するセミナーを定期的に開催します。消費者の疑問や不安に直接応えることで、安心感を提供します。
- ローン手続きの透明化:
- 複雑な住宅ローン手続きを簡略化し、現在の金利が決定された背景や今後の見通しなどを明確に伝えることで、消費者の納得感を高めます。
「ペアローン時代」住宅ローン市場における消費者の戦略的シフト
日本最大の住宅ローンテック企業として、金融機関や住宅事業者向けのクラウド型住宅ローン業務支援システムを提供。「応援し合う地球へ〜chain of Yell〜」をビジョンに掲げ、住宅ローンに関する様々な課題をテクノロジー(テック)で解決し、家を得る全ての人に「最高の住宅ローン」を提供できる社会の実現を目指す。
〒153-0042
東京都目黒区青葉台4丁目7番7号 住友不動産青葉台ヒルズ7階
iYell株式会社 公式サイト:https://iyell.co.jp/
クラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」:https://dandori-info.iyell.jp/service/
最新情報を一早くチェックしたい方は下記「登場する」からご登録ください。















