第7回【イベントレポート】不動産テック協会主催~【最新技術特集】ビジネスマッチング部会~
新しい技術を用いたビジネスモデルについての情報は多くの学びをもたらします。それぞれの会社のアプローチを理解することで、業界のトレンドや技術の実用性をより深く知ることができるので、ぜひご覧ください。
野口 真平 氏 MOZU 株式会社
衣笠 達也氏 株式会社GRApP(グラップ)
Table of Contents
不動産テック協会とは
不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産業界の健全な発展と公共福祉の増進に貢献することを目的として、不動産テック業務に関する調査・研究や情報発信、ルールの確立、ビジネス機会を創出するイベントの開催など、さまざまな事業を行っている協会です。
2018年の発足以降、不動産テックカオスマップの公開や様々な情報発信を精力的に行っています。
不動産テックとは?
不動産テック協会では「不動産テック」を次のように定義づけています。
”不動産テック(Prop Tech、ReTech:Real Estate Techとも呼ぶ)とは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと。”
超ワクワクな体験だけにフォーカスする
NOT A HOTEL株式会社
NOT A HOTEL2nd 株式会社 代表取締役社長 Chief Executive Officer
住まいが自由になれば、人生が豊かになり世界はもっと楽しくなる。
NOT A HOTEL株式会社は自宅にも別荘にもホテルにもなる「あたらしい暮らし」をつくる会社として別荘のシェア販売をメイン事業に、NOT A HOTEL MANAGEMENT 株式会社(NOT A HOTELのホテル・レストラン運営)、NOT A HOTEL DAO 株式会社(自社暗号資産(NAC)の発行販売)、NOT A HOTEL2nd 株式会社(NOA A HOTELや親和性の高い資産の二次流通での仲介や販売)をグループ展開しています。世界的に著名な建築家やクリエイターとタッグを組んだ唯一無二のデザインと、建設前にCGパースのみでオンライン販売するという新しいビジネスモデルで、既存マーケットに一石を投じる NOT A HOTELのビジネスチャレンジについて、NOT A HOTEL2nd 株式会社 代表取締役社長の江藤氏がご登壇されました。
”不動産”ではなく、NOT A HOTELを販売する
思わず目を奪われる美しい建築デザイン。NOT A HOTELが販売する別荘はすべて優れたロケーションと調和した、クリエイターによる唯一無二のデザインが特徴です。更に特徴的なのは、その販売手法。建物を建ててから内見等を重ねて購入に至る一般的な不動産購入と異なり、NOT A HOTELは建設前にCGパースのみでオンラインで販売するモデルを基本としています。
販売する物件はCGで作成した建築プランの段階で販売をしています。販売後に建築を開始するため、リスクを最小化することが出来る仕組みになっています。
「超ワクワクする体験を売る」
この部分にとてもこだわりを持っていて、圧倒的な建築プロダクトを作り込み、そこで得られる体験をお客さまに届けることが重要です。CGパース制作から物件のサイトページやパンフレット制作、オーナーが利用する専用アプリなど、そのすべてがNOT A HOTELを表現しているものでなければならないし、自分たちが超ワクワクするものだけしか作らないと決めているんです。NOT A HOTELはそんな会社です。
<NOT A HOTEL4つの特徴>
- シェア購入
- 相互利用
- エコノミクス
- テクノロジー
- シェア購入
- 一棟を最大36人でシェア購入。一人当たり最小毎年10日間の所有権を購入する販売スタイルとなっています。
- 相互利用
- オーナーになると全国のNOT A HOTELを相互利用できます。
-
(※物件のグレードにより差額のお支払いが必要となる場合があります。)
- エコノミクス
- 別荘として使わない日は、ホテルとして貸出すことが可能です。
- テクノロジー
- 自社でアプリを開発し、オーナーの滞在予約から収益管理までが一気通貫で管理できます。
NOT A HOTELにとってテクノロジーは、「何かを便利にする」だけのものではありません。繰り返しになりますが、NOT A HOTELは家でもホテルでも別荘でもない、「あらたな暮らし」を提案する会社です。そのためには、ハードウェア(建築)とそれを裏側で支えるソフトウェアが重要になる。NOT A HOTELらしい体験、そしてビジネスを加速させるために、これからも積極的にテクノロジーへの投資をする予定です。
不動産の流動性を高め、土地の価値すらも高めていく
そんなNOT A HOTELですが、今年1月に新たな取り組みをスタートさせました。NOT A HOTELのセカンダリー(中古)取引プラットフォームの構築を目指す、NOT A HOTEL2nd。プライマリー(初期の販売)の売りやすさを中心に不動産市場が形成され、長期的な価値の維持、向上を見据えた2次流通がつくられていない現場に終止符を打つべく、江藤氏が自らCEOとして陣頭指揮を執っています。
この考え方でいくと、不動産にこだわる必要もありません。(不動産とは)異なるアセットクラスでも同じプラットフォームで商品を流通させることが出来る。NOT A HOTELのビジネスやアセットをベースに、NOT A HOTEL2ndで取り扱う商品も変化していくので、そのプラットフォームの構築に、今はとてもワクワクしています。
デジタル問屋で巨大産業にイノベーションを
MOZU株式会社
MOZU 株式会社 代表取締役 CEO
建築資材の調達をより安く、カンタンにする工事会社限定のマーケットプレイス「MOZUオーダー」を開発・提供しています。
「MOZUオーダー」が提供する”デジタル問屋”について、代表取締役 CEOの野口氏がご登壇されました。
変わってこなかった、大きな卸産業
<日本の問屋の現状>
- 取引先ごとに決定される卸値
- 会社規模によって変わる取引商社の多重構造
- 情報の非対称性が大きい
「MOZUオーダー」は取引をデジタル化することで一次商社の資材を小ロットでも低価格で提供可能としました。
ただ売るだけじゃない、デジタル問屋の手厚いサポート
会員制サイトとなっており、インターネットに公開していない審査制の会員サイトに現在3,300社ほどの工事会社・新築のデベロッパー・工務店が登録しています。月間で800〜1,000社ほどが新規会員登録しており、年内には5,000社に到達する見込みとのことです。
通常の仕入れルートよりはるかに安く色々なアイテムをご購入いただけます。
我々が安く商材を提供できる理由は、仕入れから販売・配送まであらゆることをデジタル化したことで取引にかかる人的コストをカットしたぶん、商品価格を安くできています。また、会員数の増加で「MOZUオーダー」の購買力が高まったことにより、大手メーカーとの直取引が実現し、より価格を下げられるようになりました。
<「MOZUオーダー」の特徴>
- LINEで発注が可能
- 翌日配送
- 配送場所の現地指定
- 掛け払い対応
<アフターサービス例>
- 商品の配送
- 組み立てて納品する材工
- 不備があった際のメーカー補償の取り付け など
中小企業、工務店にとっての強い味方といえる「MOZUオーダー」。
会員登録後、審査が終了すれば翌日から利用料なしで使える”デジタル問屋”、注目必須です!
宿泊施設をクラウド化させていく
株式会社GRApP(グラップ)
株式会社GRApP(グラップ) 代表取締役
ホテルやアパートメントホテル・⺠泊施設などの宿泊施設をクラウドで運営・管理する「クラウド型ホテルオペレーション」の宿泊施設運営代行事業、宿泊施設を開業させるために必要な業務全般の包括的なコンサルティング事業、ベトナム支社を拠点に日本語・英語・韓国語・中国語・ベトナム語の5ヶ国語に対応した年中無休・24時間対応の宿泊施設特化型の多言語対応コールセンター事業を行っています。
代表取締役 衣笠 達也氏が登壇され、民泊新法(住宅宿泊事業法)・旅館業法の枠組みの中で展開する従来とは異なる新しい宿泊施設の運営についてお話されました。
ホテルを無人で管理する
(参照:観光庁HP)
- 民泊新法(住宅宿泊事業法))の施行
- 旅行業法の改正(地域限定旅行業の創設など)
2018年には、宿泊に関する法律が施行・改正され、宿泊業界全体に大きな影響を与えました。特に、⼀定の条件下では旅館‧ホテル施設内のスタッフ常駐必須条件が緩和され、スタッフの無⼈運営が可能となった点は宿泊施設の運営に大きな変化をもたらしました。
民泊新法と特区民泊の違い(一例) | ||
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民泊新法 | 特区民泊 | |
管轄法 | 住宅宿泊事業法 | 国家戦略特別区域法 |
年間営業日数 | 180日以内 | 制限なし |
最低宿泊日数 | 制限なし | 2泊3日以上 (自治体の条例により異なる) |
居室の床面積 | 一人当たり3.3m²以上 | 1居室25m²以上 |
管理業務の委託 | 家主不在型の場合:必要 | 不要 |
対象地域 | 全国 | 指定された特区内のみ |
活用次第で大きく変わる収益差
<無⼈型ホテルのオペレーションの特徴>
- 予約を⾃社HP‧OTAに集約
- 事前決済にてキャッシュレス化
- 電⼦キーの導⼊でキーレスを実現
- チェックインシステムの導入
- クラウドコンシェルジュサービス
- 5カ国語対応のベトナムオペレ ーションセンター
オペレーションに必要な業務全てを⾮対⾯‧⾮接触にて迅速かつ効率的に実施することで、費⽤対効果も質も高いオペレーションが可能となっています。
ハウスメーカー様との協業事業も展開しています。千葉県‧松⼾市に開業した無人ホテル「Rela東松⼾」は、通常賃料の約2.6倍と⾼⽔準の稼働率を維持しています。
今後、観光地ではないエリアでもホテル事業が盛んになっていくと思っています。
パネルディスカッション
衣笠 達也氏 株式会社GRApP(グラップ)
野口 真平 氏 MOZU 株式会社
司会:滝沢 潔氏 不動産テック協会 代表理事(株式会社ライナフ 代表取締役社長)
江藤氏:NOT A HOTELが固定価格で借り上げをしています。オーナー様が使わなかった日数すべてをNOT A HOTELで借り上げすることを保証しています。年間で約3%くらいの利回りなので、投資物件としてみると収益性が低くなります。物件の管理費を年間3%いただいているので、全日貸し出すと管理費が0円になるという設計ですね。
江藤氏:アセットを小口化したいと考えています。まだ具体的に言えないのですが、皆様が買える物の中で、「住宅より重くてホテルより軽いもの」をやりたいと思います。
江藤氏:掲載しているCG画像を見てもらえれば、ビジネスの説明をしなくても何をしている会社なのかが分ってもらえると思っています。細かい説明がなくてもビジュアルのインパクトで魅力に感じていただき、ご購入につながるケースが多く、そこが一番の差別化ポイントですね。もう一つは、お客様にとってNOT A HOTELを購入することが資産につながること。「現金が資産に置き換わる」まだチャレンジの段階ですが、大きな違いだと思います。
野口氏:設備はメーカーさんから問題なく提供していただいています。商社からの圧力は…かかってますね!
滝沢氏:かかってるんですね!?
野口氏:そんな話も聞いていますが、商社でも懇意にしてくださる会社もいるので大丈夫です。
野口氏:分散していますが、WEB系の広告が多いです。半分くらいがWEB系広告、あとはオーガニックや紹介となります。最近はすごく紹介が増えてきています。
滝沢氏:利用されている中小の企業さんは、どのくらいの規模の会社が多いですか?
野口氏:人数規模ですと、一人親方から10人くらいの規模でしょうか。逆に50人以上の規模になると少なくなってきます。
滝沢氏:SMBに特化しているということですね!
野口氏:そうですね!「MOZUオーダー」は完全にSMBに特化したサービスになっています。エンプラやミドルのゼネコンさん向けには「MOZUオーダー」とは別のSaaSを提供していきます。
野口氏:このストラクチャーは複雑でひと言での説明は難しいのですが、「自動審査」と「人による審査」のハイブリットになっています。まず、外部の審査会社様を利用した基本的な審査のプロセスがあります。さらに与信枠について社内のオペレーションにて個別の審査を行っています。
滝沢氏:掛け払いOKだと資金繰りが大変なのでは?と思ったのですが、後払いサービスのようなものは利用しているのですか?
野口氏:使ってないですね。メーカーさんや商社さんとの取引のなか、そこでの決済サイクルに合わせているのでキャッシュフローは特に問題ありません。
野口氏:競合が100年以上続く問屋さんになります。我々も、ここまで来ることが本当に大変でした。そもそも、メーカーさんとの口座を開くことが難しいので。バイイングパワーがあれば、仕入れが安くなる構造なので、まずは集客をしていきました。
プロセスイノベーションが重要だと思うのですが、この業界は顧客ごとに掛け率が違う設計になってます。「MOZUオーダー」は、商品に対して顧客ごとに違う掛け率を紐づけたデータベースを作成しています。なのでお客様が見積依頼をすると自動的に金額を回答することができます。
滝沢氏:ログインするアカウントで金額が変わるのですね!このシステム構造がMOZUさんの強みになるかと思いますが、商社や問屋が同じシステムを作ってきたら大変ではないですか?
野口氏:そうですね。ただ、イノベーションジレンマが起こりやすいのかなと思っています。大手の商社・問屋さんは何千という拠点を持っていて、それぞれの拠点に働いている人がいます。そこをダウンサイジングしていくのは難しいことだと考えています。
衣笠氏:その通りです。2018年に旅館業法の改正があり、フロントに24時間人を配置しなければならない制度が撤廃されました。
滝沢氏:それまでは24時間フロントに人がいなければいけなかったのですか?
衣笠氏:そうですね。全国一律でそうでした。
衣笠氏:そうですね。だいたい容積が問題になります。用途地域が「専用」だった場合はできませんが。
滝沢氏:旅館業にする時は、登記上から変更しないといけないのでしょうか?
衣笠氏:旅館業法だと用途変更が必要になります。民泊なら共同住宅のままでいいので用途変更が必要なくなります。それであれば、いつでも切り替えというのは出来ると思います。
滝沢氏:ちなみに既に賃貸借契約で住んでいる人が、気付かないうちに自分の住んでいる物件がホテルに変わっている!といったことは出来るのでしょうか?
衣笠氏:用途変更をする場合は消防法で誘導灯やスプリンクラーなど設置義務があるものがいくつかあるので、気付かないうちに…というのは無理だと思います。
滝沢氏:アナウンスさえすれば…いけるということですね。
衣笠氏:そうですね。あとは、保健所の立会とかも必要ですが、出来なくはないと思います。
野口氏:バランスをみながら徐々に開発に力を入れていき、SaaSへの入口を作っていきたいと思います。
衣笠氏:自分たちで土地を抑え、エクイティ・SPCで不動産には投資家に入っていただき、開発は依頼しますが、そんな風にどんどんアセット開発をしていきたいなと考えています。
江藤氏:すべての人にNOT A HOTELを」というのが会社のミッションなので、今日参加されている方々やそのご家族の方、みなさんがNOT A HOTELを持っている世界を作りたいと考えています。NOT A HOTELの現状とミッションとの乖離は、まだまだ大きいですが、だからこそやりがいがありますね。
滝沢氏:ちなみに、HPを拝見するとホテルじゃん!と思ったのですが、NOT A HOTELさんの社名にはどんな意味があるのですか?
江藤氏:「NOT A HOTEL」ですが、ホテルを全否定したいわけではなく、ホテルの良さも活かしつつ、まったく新しいHOTELをつくりたかった。ただし、今あるホテルのビジネスモデルをそのままやらない。どこか少しずつ変えていきたいという意味で、NOT A HOTELという社名になっています。
まとめ
これまで既成概念としてあった「不動産は単一のもの」といった価値観を否定し、持ち方・買い方を工夫したNOT A HOTEL。建物を柔軟に捉え、活用方法の工夫で収益性を上げていくGRApP。
歴史の長い巨大産業の根幹を見直し、仕入れから販売・配送まであらゆることをデジタル化したMOZU。
これまで当たり前だと思われていた概念や商習慣を変え、イノベーションを起こす企業を支えているのは、随所に駆使された最新技術でした。そして技術が最新な会社は、ビジネスモデルも”最新”でした。イノベーターとして最前線を走る企業がどのように社会を変えていくのか、今後の展望に期待が高まります。
関連情報
│一般社団法人 不動産テック協会
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/
┃NOT A HOTEL 株式会社
https://notahotel.com/
┃MOZU 株式会社
https://about.mozu-inc.jp/
┃株式会社GRApP(グラップ)
https://grapp.co.jp/