不動産の抹消登記は自分でできるのか?│費用と必要書類について解説
不動産営業の仕事をしていると、かつて住宅を買ってくれた方から抵当権抹消登記について説明を求められることがあるかもしれません。
抵当権抹消登記は住宅ローンを組んだ方ならいつかは行う手続きではありますが、住宅ローンを組んでから最長で35年も手続きとは無縁でいることも多いです。債務者が内容を理解していないことも少なくありません。
今回は登記について学び始めた不動産営業の方に向けて、抹消登記の基本的な内容と必要書類・費用、自分で手続きする際の大まかな流れを解説します。
抹消登記とは
抹消(まっしょう)は「消す」という意味です。抹消登記は、登記の内容がなくなった時に消すことで、登記の効力を失わせる登記のことを指します。
不動産を購入する際に住宅ローンを利用していた場合、不動産を対象に抵当権(債務者が債務不履行になった場合に、債権者が担保とした土地や建物で弁済を受ける権利)が設定されます。
抹消登記で代表的なのは、その返済が完了したときに抵当権を抹消するために行う「抵当権抹消登記」です。
住宅ローンを完済すれば自然と抵当権が消滅するわけではなく、債務者が申請して抵当権を抹消する必要があります。
抹消登記では抹消する登記に下線を引くことで抹消したことを示します。書かれていた文字は見えるため、抹消された内容が分かる仕組みです。
抹消された登記の履歴を残しておくと、将来的に誰かが不動産の調査をするうえで役に立ちます。
抹消登記が必要なケースは?
抵当権は住宅ローンの返済中に有効な権利であり、完済後もずっと設定しておくものではありません。
以下のようなケースが発生する際は抵当権抹消が必要です。
- 不動産を売却する場合
- 新たな融資を受ける場合
- 相続が発生する場合
抵当権が設定された不動産を売却する場合、事前に抵当権を抹消しておく必要があります。購入希望者が現れたとしても抵当権が設定されていることでローン審査が通らず購入してもらえないためです。
新しく住宅ローンを組む場合も同様です。担保となる不動産が「抵当権付きの不動産」と判断されると、住宅ローンを完済してあるとしても審査に影響が出てしまいます。
相続が発生する前にも、抵当権を抹消しておくことが重要です。抵当権が設定されたまま相続された場合は解説した通り売却にも融資にも影響があり、相続で不動産を受け継いだ方に負担を強いることになってしまいます。
抹消登記の方法には2つある
抵当権の抹消登記を行う場合、大きく分けて以下の2種類の方法から選択できます。
- 自分で抹消登記をする
- 司法書士に依頼をする
ただし、自分で登記できないケースもあるので、その違いを理解しておく必要があります。
自分で抹消登記をする
借入金を完済させたあとの抵当権抹消登記であれば、債務者が自分で手続きすることも可能です。
必要書類を集めて記入し、抵当権抹消登記をしたい不動産を管轄している法務局へ提出します。
主な流れは以下のとおりです。
- 金融機関から抹消登記に必要な書類が届く
- 抵当権抹消申請書を作成
- 添付書類を加えて法務局に提出
- 登記所での審査
- 登記完了証の受取り
登記に必要になる書類として、法務局で事前に「登記事項証明書」を取得しておきましょう。
住宅ローン完済後は金融機関から抵当権抹消登記に利用する「弁済証書」「登記済証または登記識別情報」「委任状」等の書類が送られます。
登記申請書の書式は法務局のホームページで公開されているものを利用し、必要書類を添えて法務局に提出します。審査を経て1週間から10日ほどで抹消登記は完了です。
司法書士に依頼をする
抵当権を設定された不動産を売却して代金で残債を返済する場合は、自分では手続きを進められません。
確実に抹消登記を成立させるために、司法書士に抹消登記を依頼する必要があります。
抹消登記の必要書類
不動産の抹消登記で必要になる書類は、大きく分けて以下の4つです。
- 弁済証書
- 登記済証または登記識別情報
- 登記原因証明情報
- 委任状
弁済証書
借入金を完済したことを証明する書類です。「抵当権解除証書」「放棄証書」という名称の場合もあり、完済後に金融機関から郵送されます。
登記済証または登記識別情報
抵当権を設定したときに金融機関から債務者に対して交付されている書類で、登記済の赤い判印が押してあります。
法務局のコンピュータ化以降に設定された抵当権の場合、登記識別情報という書類が返却されます。
登記原因証明情報
登記の原因となる事実や法律行為が記載された情報です。どういう理由で、どのように不動産に関する権利が移動したかが記されています。
弁済証書、抵当権放棄証書、登記済証に解除等の旨が記載されたものが登記原因証明情報にあたります。
日付の欄が空欄になっている場合、あらかじめ金融機関に日付を確認して埋めておきましょう。
委任状
金融機関からの委任状のことです。日付欄が空欄だと申請できないので、あらかじめ金融機関に日付を確認して埋めておく必要があります。
抹消登記に必要な費用
抵当権の抹消費用には登録免許税を始め、一定の費用がかかります。
登録免許税
登記簿等本から抵当権を抹消する場合、抵当権抹消の登録免許税がかかります。
費用は不動産1筆につき1,000円です。マンションのように土地1つ・建物1つに分かれている場合は2,000円が必要です。
収入印紙を貼り付けた用紙を割印や消印はせずに申請書と一括で綴り、提出します。
登記情報代
登記に関する事前調査の際、登記情報の提供を受けるための費用です。1件につき355円の手数料がかかります。
登記完了後の登記事項証明書の請求費用は1件600円ですが、オンラインで登記事項証明書を請求する場合は1件500円、オンライン請求・窓口交付の場合は1件480円に減額されます。
郵送料
法務局に行かずに郵送で申請することもできますが、郵送料と返信用の郵券が必要です。場所によって郵送料は異なるので、あらかじめ確認しておく必要があります。
司法書士手数料
抵当権抹消を司法書士に依頼すると、司法書士手数料が発生します。
司法書士事務所によって金額が変わるので一概にはいえませんが、大まかには1万5,000円程度が相場とされています。
参考までに司法書士会連合会のアンケートの結果における、地区ごとの「全体の平均値」をまとめておきます。
- 北海道地区:15,532円
- 東北地区:13,863円
- 関東地区:15,613円
- 中部地区:15,638円
- 近畿地区:18,795円
- 中国地区:15,289円
- 四国地区:14,409円
- 九州地区:13,821円
まとめ
本記事では登記を学び始めた不動産営業の方に向けて、抹消登記についての概要や費用、必要書類などについて紹介しました。
住宅ローンを完済したことに伴う抹消登記であれば自分で行うこともできますが、売却代金を残債に充てる場合は自分では行えません。専門家である司法書士に依頼することになるでしょう。
「自分で抹消登記を進めたい」と相談を受けた際に適切なアドバイスができるように、基本的な知識を身に着けておきましょう。