2020年度受験のカギを握る民法の大改正について詳しく解説
宅建士試験に関わらず国家試験の多くは毎年法改正などによって、少量の範囲内ですが試験内容や傾向が変化します。
しかし今回は民法大改正によって宅建士試験の出題傾向が従来と大きく異なるため、試験自体の難易度が上がると予想されています。
今回はこの民法大改正について詳しく解説していくことにします。
民法大改正が2020年の宅建士試験を難しくする?
宅建士試験は宅地建物取引主任者試験の頃から、翌年の試験に関しては難易度が上がると毎年のように予想されてきました。
2020年度は民法の大改正による改正民法が初めて本試験に適用されます。試験の難易度が通年以上に上がるといわれているのはこのためです。
まず民法大改正に触れる前に、2020年度の試験概要とポイントをみていくことにします。
2020年度宅建士試験概要
主な試験概要については表のとおりになります。
試験日 | 2020年10月18日 13:00~15:00 |
出題数・出題形式 | 50問(マークシート)・4択 |
試験時間 | 120分(途中退出不可) |
登録講習による免除 | あり(5問免除) |
試験案内の配布及び受付(予定) | 2020年7月1日~7月31日
・郵送 :7月31日の消印有効分まで ・ネット:7月31日21時59分まで |
合格発表(予定) | 2020年12月2日 |
試験のポイント
概要を見る限り、例年と比べてほとんど変化はありません。よって受験スケジュールに関しては通常通りの対応で構わないといえます。
言い換えれば、通常の勉強にプラスして民法大改正の対策をきちんと行いさえすれば、本試験の試験内容には充分対応できることを意味しています。
民法の大改正とは
民法は約120年前に制定されて以来ほとんど改正されることはありませんでしたが、ついに2020年4月1日に大きく改正されることになりました。制定時から時代が変化しているために対応が難しくなってきたのも理由の1つです。
改正の項目は大小合わせて約200あり、債権法の分野で多くの改正が行われています。
債権法
債権法とは文字通り債権について規定しているもので、債権をわかりやすく言い換えると「請求する権利=もらえる権利」ということになります。
よって債権による契約に関する規定の多くに見直しが行われています。
宅建士試験に関係する改正民法の内容
宅建士試験において民法の出題範囲は権利関係と呼ばれ、民法以外にも借地借家法や不動産登記法などがその範囲に含まれ、試験問題は全50問中14問あります。
次に民法内における債権の出題割合に関しては、民法全体の約2,3割に相当し、権利関係全体で大きなウエイトを占めます。
実際に出題される債権の内容としては、債権譲渡・賃貸借契約など多くの項目があり、試験に合格するためには必ず理解しておく必要がある分野です。
ここからは宅建士試験に出題される可能性がある民法の改正部分を抜粋して解説していきます。
意思能力の瑕疵
- 改正前:条文規定なし(判例のみ)
- 改正後:条文化
これまで意思能力の瑕疵については、判例によって意思能力のないものが行った法律行為については無効とされてきましたが、今回の改正で正式に条文化されました。
錯誤
- 改正前:条文規定なし(要件と判例のみ)
- 改正後:条文化
これまで錯誤の要件を満たせば契約は無効とされてきましたが、今回の改正では要件について条文化されたほか、効力についても無効から取り消しに変更されました。
消滅時効
- 改正前:原則10年((例外として飲み屋のツケ1年・工事等の請負代金3年・商取引で発生した債権5年など)
- 改正後:➀権利を行使することができることを知ったときから5年間②権利を行使することができるときから10年間のいずれかが先に到達したとき
改正前は原則10年と定められていたものの、例外規定の年数がそれぞれ異なっていましたが、改正後は➀知ったときから5年②知らなかったらその日から10年のどちらかに統一されました。また用語も時効の中断→時効の更新・時効の停止→時効の完成猶予に変更されました。
債権譲渡
- 改正前:譲渡禁止特約
- 改正後:譲渡制限の意思表示(譲渡禁止特約が無効になった訳ではない)
改正後は譲渡禁止特約があっても債権を譲渡することが有効になりました。ただし債権の購入者が悪意または重過失である場合に対しては拒絶及び弁済することができるなど、譲渡禁止特約自体が無効になったわけではありません。
相続
➀配偶者居住権
- 改正前:制度化されず
- 改正後:制度化
配偶者居住権が制度化されることによって、配偶者が相続開始後終身に渡って無償で建物等を使用することができる権利を得るようになりました。
②遺言の第三者への対抗要件
- 改正前:遺言のみで対抗できる
- 改正後:遺言+登記で対抗できる
第三者に対抗するためには遺言のみでなく登記も必要になりました。
③遺留分
遺留分における遺留分減殺請求が金銭によって解決できるようになりました。
保証人の保護
- 改定前:保証限度額の定めなし
- 改定後:連帯保証契約を締結するときは保証限度額を契約時に定めること
これによって連帯保証人の保証限度額を定めることができるだけでなく、契約書に限度額が未記載の場合は保証契約そのものが無効になります。
賃貸借契約
➀目的物の返還義務
- 改正前:判例のみ
- 改正後:判例を条文化
②存続期間の延長
- 改正前:上限は20年
- 改正後:上限は50年
賃貸借契約に関しては判例が条文化されたり、上限数が延長された程度の改正となります。
契約不適合責任
➀規定
- 改正前:特定物売買の場合は瑕疵担保責任・不特定物売買の場合は債務不履行責任が適用
- 改正後:瑕疵担保責任の廃止及び契約不適合責任を新たに規定
契約不適合責任は特定または不特定物売買に関係なく、目的物が契約内容にはく離している物に対して適用されます。
②それぞれの手段
- 改正前:解除と損害賠償のみ
- 改正後:上記に加えて追完請求と代金減殺請求が可能
改正民法が宅建士試験に与える影響
宅建士試験の勉強方法において民法の条文を一字一句覚える必要はありませんが、改正後の名称変更やその条文が及ぼす効力についてはしっかりと抑える必要があります。なぜなら設問によっては解答の正誤が従来と反対になるほど、大規模な改正を行っているのが理由です。
例えば瑕疵担保責任から契約不適合責任への名称変更や、錯誤の効力が無効から取り消しに変わったことなどを地道に抑えていく必要があるでしょう。
改正民法に向けての受験対策
みなさんも独学または通信及び通学といった方法で受験勉強を行うと思いますが、ここからは改正民法を意識した勉強方法について具体的なやり方をみていくことにします。
2020年度版のテキストで学習する
従来の宅建士試験では、前年度のテキストであっても本年度試験には充分に対応できていました。
しかし今回の民法における改正は名称・用語・効力までが変更されているため、旧テキストとの内容がかなり異なることが予想されます。
前年度から引き続き受験する人も含めて、改めて新しいテキストで学習することが望ましいでしょう。
過去問題集の取扱いに注意する
過去問題集に関してもテキストと同じく、従来では前年度の問題集であっても本年度試験には充分に対応できていました。
しかし民法に関しては改正前の規定における問題や解答となっており、名称・用語・効力などが異なるだけでなく、問題と解答によっては答えの正誤が全く逆になる可能性があります。
宅建業法などで使用することは問題ありませんが、過去問題集に関しても2020年度試験対応のものを購入する方がよいでしょう。
2020年度試験対応の講座を受講する
特に通信講座を受講する際に注意する点になりますが、受講時には必ず2020年度試験対応の講座であることを確認してから受講するようにしましょう。
常に最新のバージョンを使用する
最近は宅建アプリを利用して勉強をする人も多いかと思います。こちらも過去問題集と同じく、2020年度試験に対応したアプリを使用するようにしましょう。
また既にダウンロード済みの人は、バージョンアップやアップデート等で更新した常に最新の状態にしてアプリを使用するようにしましょう。
最新の受験情報を収集する
民法の大改正以外に日程等の大きな変化はありませんが、今年は例年よりも受験全般においてさまざまな混乱が起こる可能性も否定できません。そのためにも常に最新の受験情報を学校やネットなどで収集しておくようにしましょう。
まとめ
本年度の大学入試に関してもそうでしたが、制度変更や大きな改正が行われるときに一番振り回されるのは受験生です。しかし誰よりも早く、そして正確にその内容を理解すれば合格にぐっと近づくのもまた事実です。そのためにはあらゆる情報収集を怠らないようにするのが秘訣です。