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中間省略登記とは何かわかりやすく解説|メリット・デメリットも紹介
不動産の売買には多くの手数料や税金が発生します。
なるべく売却益を残すために有効なのは、不動産取引における手法や特例を活用することです。それによって取引に必要な出費が減り、売却益を多く残せるようになります。数多くある手法の中でも、節税に対して有効な特例の1つが「中間省略登記」です。
ただし、「中間省略登記」は節税になるメリットばかりでなく、デメリットや注意点も存在します。制度の内容をしっかりと理解した上での活用が必須です。
今回は、不動産取引における手法の1つである「中間省略登記」のメリットや注意点について解説していきます。
中間省略登記とは何かわかりやすく解説

不動産の所有権が移転される場合には「所有権移転登記」が必要です。移転が複数回に及ぶ場合はその都度、所有権移転登記が発生します。
例えば、建物の所有権が「Aさん→Bさん→Cさん」と移動した場合を考えてみましょう。本来であれば「Aさん→Bさん」部分の所有権移転登記と、「Bさん→Cさん」部分の所有権移転登記の両方が必要です。
ただし、当事者であるAさん・Bさん・Cさんが話し合って合意すれば、「Aさん→Cさん」という1つの登記だけで済む場合があります。
このことを「中間省略登記」と呼びます。
なお、「登記とは何か」ということを調べたい場合は、こちらの記事をご覧ください。 ▶法務局で不動産登記を調査|売買取引に向けて確認するポイントや注意点
中間省略登記のメリット・デメリット
効率的に取引を進めることができる中間省略登記ですが、活用にあたってはメリットだけではなくデメリットにも目を向ける必要があります。
中間省略登記におけるメリットとデメリットを見ていきましょう。
中間省略登記のメリット
中間省略登記の主なメリットは2つです。
- 節税効果がある
- 売却金額が当事者以外に知られない
まず、中間省略登記を活用することで費用を削減することが可能です。
所有権移転登記の際には、不動産取得税や登録免許税といった税金がかかります。通常の移転登記であれば2回分必要なところ、中間省略登記であれば1回分で済ませることができます。
前述の「Aさん→Bさん→Cさん」という取引で考えてみます。
「Aさん→Bさん」「Bさん→Cさん」という2つの取引が「Aさん→Cさん」にまとまるので、中間者であるBさんにかかる不動産取得税と登録免許税が不要になります。
またBさんが得するだけではありません。Cさんとしても、節税によって安くなった価格で不動産を買い取れるメリットがあります。
契約方法によっては、売却金額が当事者以外に知られない点もメリットです。
第三者のためにする契約の場合にはCがAに対して受益の意思を示した後で、BがAに対して代金を全額支払います。よって、CにAB間の取引金額を知られることがありません。Cさんに自分の取引金額を知られたくないBにとっては魅力的なメリットです。
中間省略登記のデメリット
中間省略登記におけるデメリットは以下の2つです。
- 正しい取引経過が反映されない
- 移転登記の完了に時間がかかる
まず、「Aさん→Cさん」という記録で登記されるために正しい取引経過が分からなくなります。名義人と所有者が異なることによってトラブルの引き金になる可能性があります。
また移転登記の完了に通常より、多くの時間を要するというデメリットもあります。AさんとBさんの取引と、BさんとCさんの取引の両方がまとまらないと登記が進まないためです。
新・中間省略登記とは
A・B・Cでの同意があれば問題なしとして最高裁判所でも判断された中間省略登記ですが、「不動産登記は、権利の取得や移転の経緯を忠実に反映させる必要がある」として法務局では認めていません。
ただし、平成17年の法改正までは売買契約書の写しは必須ではなかったために中間省略登記を行っているか把握する術がなく、それらの登記も受け付けられていました。
現在では法改正によって売買契約書の添付が必須となったので、法務局が中間省略登記を把握できるようになり実質的に利用できなくなりました。
しかしながら実務上では、中間省略登記を使ったほうが便利なことが多々あります。
内閣の諮問機関である「規制改革・民間開放推進会議」の検討の結果、従来とは異なる考え方の中間省略登記が認められることになりました。
それが「新・中間省略登記」と呼ばれるものです。
中間省略登記と新・中間省略登記の違い
新・中間省略登記とは、一定の用件において例外的に「Aさん→Cさん」という直接移転売買を可能にする合法性の高い中間省略登記です。
具体的には、「第三者のためにする売買契約」又は「買主の地位の譲渡」という形式をとる必要があります。
従来のように中間であるBさんを省いた登記ではなく、Bさんが関与した上でAさんからCさんに直接移転できる点に違いがあります。
中間省略登記の契約内容は2通り
新・中間省略登記が適用される契約方法には2つの種類があります。「第三者のためにする契約」と「買主の地位の譲渡」です。それぞれ解説していきます。
①第三者のためにする契約
不動産の持ち主であるAさんが、Bさんとの売買契約を「第三者の為にする契約」という特約を付加して締結するものです。つまり、「AさんがBさんと売買契約を締結するが、それはBが指定する第三者に直接権利を取得させるためである」という内容になります。
その後、BさんとCさんの間で売買契約を結びます。その際に本来はBさんが行うべき「不動産を所有する権利をCさんに移行する」という手続きをAさんが行う特約をつけます。
Bさんは所有権を所持しないままなので中間省略には当たりません。
②買主の地位の譲渡
もう1つの方法が「買主の地位の譲渡」と呼ばれるものです。
まず、不動産の所有者であるAさんとBさんの間で売買契約を締結します。続いて、BさんとCさんの間でAさんとの売買契約で買主になる地位をCさんに譲渡する契約を交わします。
地位の譲渡についてAさんの同意を得てCさんが代金を全額支払うことで、AさんからCさんへの直接移転登記が可能になります。
農地転用・転売における中間省略登記
買主の地位を譲渡する新・中間省略登記により、農地の転売においても節税につながるケースがあります。
農地の転売とは
農地の転売とは、農地を転用目的(農地を、農地以外のものにすること)で買った人が農地法第5条の許可を得る前に第三者に売ることです。完全な所有権ではなく、農地法5条の許可を得る前の「条件付きの所有権」ということになります。
農地法5条とは
農地法5条とは、農地の転用目的の権利移動に関する許可制度です。
簡単に言うと、「農地の転用を行う場合には都道府県知事の許可が必要」ということです。もっとも、市街化区域内の農地については農業委員会への届け出のみで転用できます。

画像引用:みやま市|農地法4条及び5条申請
「農地の転売」と「買主の地位の譲渡」の違い
上述の条件付き所有権について、判例では「農地の転売」と「買主の地位の譲渡」の2つに分けて別の解釈がされています。
事例は、土地所有者Aさんから土地の転用目的で購入したBさんが、農地法5条の許可を受ける前の条件付き所有権をCさんに譲渡する場合です。
「農地転売」に該当するのであれば、CさんはAさんに対して直接所有権を移転する申請手続きをするように請求することはできません。一方で「買主の地位の譲渡」にあたる場合のCさんは、AさんからCさんへ直接所有権を移転する申請手続きをするように請求できます。
これは単なる転売とは異なり、買主の地位の譲渡によってCさんはBさんの地位をそのまま引き継ぐためです。AさんとCさんの直接取引のような形になるため、所有権もAさんからCさんに直接移動ができるようになります。
買主の地位の譲渡を行うことによって新・中間省略登記を行うことができ、手続きを簡略化することが可能なのです。
新・中間省略登記の注意点
新・中間省略登記における最大の注意点は、Bさんが不動産の所有権を取得できないことです。取引においてはBさんの立場が不動産業者になることが多いため、対策が必須になります。
中間者であるBさんへの登記を省略してCさんへ直接移転登記をする場合、最初の取引であるAさんとBさんの契約では所有権はAさんのままで代金決済をすることになります。
Aさんが悪い人である場合、代金だけ受け取って別のDさんへ売却する可能性があるということです。
そのため、AさんBさんの取引とBさんCさんの取引を同時に行う「同時決済」などの対策が不可欠になります。
まとめ
今回は不動産取引における手法の1つである中間省略登記について解説しました。節税になるメリットばかりでなく、デメリットについても正確に買主様にご理解いただくことが大切です。
中間省略登記への理解を深め、買主様に適切なアドバイスができるようにしましょう。
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