不動産の現地調査をするときには上空の確認も忘れてはいけません。
引渡しとは?不動産売買契約における意味・引渡しまでにやるべきこと
不動産売買契約では、「引渡し」によって売主から買主へ所有権が移転します。本当の意味で契約が完結する重要な日と言えるでしょう。
多くの方は不動産取引に慣れていないため、お客様が安心して引渡し当日を迎えられるように、営業担当者として丁寧にサポートすることが大切です。
ここでは、引渡しの意味や日程を決める際の注意点、引渡しまでにやるべきことなど、お客様を案内する際に役立つ情報をお届けします。
引渡しの意味
不動産売買契約における「引渡し」とは、不動産の所有権を売主から買主へ正式に移転させる手続きです。
売買契約書には、一般的に引渡しに関する以下の条文が設けられています。
【売買契約書における条文の例】
第〇条(引渡し)
売主は、買主に本物件を売買代金全額の受領と同時に引渡す。
上記の通り、売主による引渡しは、買主による代金決済と同時に行うケースがほとんどです。
引渡し日の設定
不動産売買契約書には、引渡しと代金決済の期限を記載しますが、原則、両者の期日は同日です。その理由は、民法における以下の条文が関係しています。
”双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。”
双務契約とは、契約の当事者が互いに義務を負う契約です。
不動産売買契約において、売主は買主に対して不動産の引渡し・所有権移転登記を行う義務を負い、買主は売主に対して代金を支払う義務を負っています。
このように、双方が契約成立のための義務を負った契約が「双務契約」です。
民法・第533条には「相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる」とあります。
不動産売買契約において、売主の義務は引渡し+所有権移転登記、買主の義務は代金を支払うことです。売主の義務は引渡しと所有権移転登記の両方ですから、売主が物件を引渡しても、所有権移転登記をしない限り、買主は自己の債務の履行(代金の支払い)を拒むことが可能です。
このときの買主のように、債務の履行を拒むことができる権利を「同時履行の抗弁権」と呼びます。
債務の履行を別日に設定すると当事者間でのトラブルが生じやすくなるため、所有権移転登記・引渡しと代金決済は同日が好ましいとされています。
引渡しと代金決済が同時に行われない場合
当事者の事情によっては、引渡しと代金決済が別日になってしまうこともあるでしょう。
ただし、それらが同時に実行されない場合は当事者の一方にリスクが生じます。お客様に対して丁寧にご説明し、リスクについてご理解いただくことが大切です。
先ほど、民法上では「相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる」と定められている旨をお伝えしました。(同時履行の抗弁権)
しかし、この権利は双務契約であればいつでも適用されるかと言うと、そうではありません。民法・第533条には、ただし書きで続きがあります。
”双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。”
たとえば、不動産売買契約書において、買主の代金決済の期限を9月1日、売主の引渡し・所有権移転登記の期限を9月30日に指定したとしましょう。
この場合、買主には代金決済を9月1日までに行う義務がある一方、売主は引渡し・所有権移転登記を9月30日までに行えば良いことになります。
民法では「相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない」と定められているため、買主が代金を支払う時点では同時履行の抗弁権が適用されません。
引渡しよりも代金を先に支払う買主にリスクが伴う契約内容と言えるでしょう。
引渡し日の目安
売買契約の締結から引渡しまでの目安は1~3ヶ月程度ですが、当事者の事情によって異なります。
売主が不動産会社の場合や退去済みの場合、短期間で引渡しできる可能性が高いでしょう。
一方、契約の当事者が個人の場合、以下の理由から3ヶ月以上かかってしまう可能性があります。
・買主がローンを利用する(本審査や金融機関との契約手続きが必要)
・不動産に抵当権が設定されている(抵当権抹消登記に向けて売主と金融機関で調整が必要)
・売主が対象の不動産に入居中(新居探しや退去の準備が必要)
また、代金決済をするためには、金融機関から買主への融資実行など金融機関での送金手続きが必要です。
そのため、多くの場合、引渡しは平日に行われます。
売買契約から引渡しまでにやるべきこと
引渡し当日は、契約の当事者(売主・買主)、不動産会社の営業担当者、金融機関の担当者、司法書士など複数の人が一度に集まる日です。
手続きに不備があると引渡しを完了できず、多くの方に迷惑がかかってしまいます。
契約の当事者である売主・買主の中には手続きに慣れていない方が多いため、営業担当者としてしっかりとフォローしましょう。
ここでは、売買契約から引渡しまでにやるべきことを売主・買主それぞれの目線で解説します。
あわせて読みたい:物件引き渡し前に行う総点検とアフターフォロー|その重要性と確認ポイント
売主がやるべきこと
売買契約から引渡しまでに、売主がやるべきことをまとめました。
【売主がやるべきこと】
項目 | 相談先・具体例など |
所有権移転登記の準備 | ・司法書士へ必要書類を確認する 【準備するもの】登記済権利証または登記識別情報、印鑑証明書、実印、身分証明書、固定資産税評価証明書 |
抵当権抹消登記の準備 | ・金融機関へローンの残債額や抵当権の抹消について確認する |
引越し・新居の手続き | ・引渡し日までに引越しを済ませる |
買主へ引き渡す書類一式・鍵の準備 | ・不動産に関する書類や鍵などを準備する 【具体例】マンションの管理規約・パンフレット、建物の図面、土地の測量図 |
買主と精算する税金・経費に関する資料の準備 | ・税金や各種経費など、金額がわかる資料を準備する |
登記済権利証(または登記識別情報)を紛失している場合や、登記簿上の住所と現住所が異なる場合は別途、手続きが必要です。
手続きには時間がかかることもあり、当日に引渡しが完了しないリスクがあります。
登記関連について詳しくは司法書士や売主へ、早めに確認しておきましょう。
その他、不動産に抵当権が設定されている場合、抵当権を抹消してから売却します。
金融機関との調整が必要になり、時間がかかる可能性があるため注意が必要です。
買主がやるべきこと
売買契約から引渡しまでに、買主がやるべきことをまとめました。
【買主がやるべきこと】
項目 | 相談先・具体例など |
残代金の準備 | ・ローンの本審査や金融機関との契約を済ませておく |
各種費用の準備 | ・固定資産税や都市計画税といった税金、仲介手数料など各種費用を準備する |
登記の準備 | ・司法書士へ所有権移転登記の必要書類を確認する ・金融機関や司法書士へ抵当権の設定について確認する(ローンを組む場合) 【準備するもの】住民票、印鑑証明書、実印、身分証明書 |
買主がやるべきことは、主にお金と登記の準備です。
代金をローンで支払う場合は、不動産売買契約後に本審査・金融機関との契約締結を要します。審査や手続きには一定期間かかりますので、日程に余裕を持って準備することが大切です。
固定資産税・都市計画税の精算は、引渡し日の前日までを売主の負担、引渡し日以降を買主の負担として日割り計算する方法が一般的です。
対象の不動産や契約日によっては買主の負担が大きくなるため、前もって計算しておきましょう。
引渡し当日の流れ
引渡し当日の流れは以下の5つのステップです。
- 登記申請書類の確認
- 融資実行(買主)
- 代金決済・各種精算
- 不動産に関連する書類・鍵の引渡し(売主)
- 仲介手数料の支払い
引渡し当日は、買主による代金決済と売主による引渡しを順番に行い、所有権移転登記を完了させます。
一見シンプルですが、全てを完了させるためには当日に向けてしっかりと準備をする必要があります。
準備を怠ると引渡しを完結できないため、営業担当者として丁寧にフォローしましょう。
まとめ
引渡し当日は、売主による引渡し・所有権移転登記、買主による代金決済を行う大切な日です。
売主・買主の双方には当日に向けてやるべきことが複数あり、各専門家との連携も必要です。
早めに行動しないと引渡しを完結できない可能性がありますので、営業担当者として丁寧にフォローしましょう。
