省エネ基準適合の説明義務

投稿日 : 2019年12月22日/更新日 : 2023年06月05日

建築物省エネ法における現行制度と改正との比較(規制措置)

出典:国土交通省

建築主の行動変容を促すきっかけに

キーポイント

▶300㎡未満の住宅・建築物が対象

▶適合義務化先送りで生まれた制度

▶建築主の意向把握を建築士は確認

小規模の住宅・建築物の建築主に対して建築士が省エネ基準への適否などの説明を義務付ける制度である。

小規模の住宅・建築物の建築主は省エネ性能への理解が不十分なケースも多いことから、建築主の行動変容につなげることを目的に2019年に国会で審議された改正建築物省エネ法の目玉の1つに位置付けられている。20年までの省エネ基準の適合義務化の先送りにより創設された、妥協の産物的な意味合いも残る。

この制度新設の背景にあるのは国土交通省がとりまとめた「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について」だ。現状での省エネ基準の適合率は建築物で92%だが、住宅では59%にとどまる。

また、9割以上の水準である建築物でも300㎡未満の「小規模」は69%と大規模・中規模に比べて低い。小規模の住宅・建築物については審査体制の不足などを考慮し、これまで同様、省エネ基準の適合を「努力義務」にとどめた。

他の用途・規模別では300㎡以上2000㎡未満の中規模建築物がこれまでの届出義務から「適合義務」に変更され、建築物では大・中規模で適合が義務付けられる。大・中規模の住宅はこれまで通り「届出義務」であるものの、国は指示命令を徹底する方針であることから、適合率の引き上げが予想される。

大・中規模の住宅・建築物ともに適合率を引き上げる措置が取られる中、小規模の住宅・建築物だけ現状の「努力義務」だけというわけにはいかない。そこで設けられたのが建築士から建築主への説明義務という制度である。建築士は、建築主の意向を把握した上で書面を使って説明する。

建築主への説明義務は適合義務化への通過点も

もっとも、こうした制度に異論がないわけではない。「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について」の検討会に出席した委員からは、「住宅の省エネ基準義務化なしという方向で議論が進んでいることに対して、高性能な住宅づくりに取り組んでいる工務店などから非常に失望したという声を聞いている」と適合義務化先送りに批判的な意見が出た。

住宅の省エネ化は国の大きな施策のひとつ。適合率の低さから“時期尚早”と見送られた義務化。説明義務により消費者の意識をどれだけ高められるかが大きなポイントとなる。

これからどうなる?
建築主目線で省エネ基準適合の大切さを説明

法の改正には「小規模建築物の建築に係る設計の委託をした建築主から同項の規定による評価及び説明を要しない旨の意思の表明があった場合については、適用しない」とある。簡単に言えば「いらない」と言われれば、それ以上踏み込むことができないわけである。さらに、説明は書面を交付して行うわけだが、いつ行うのかタイミングも重要となろう。それだけに、単に制度で説明が義務付けられたからという発想だけでは、建築主に省エネ基準適合の大切さは伝わらないため、それぞれに応じた工夫が必要だ。

Housing Tribune編集部(創樹社)提供

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。